【コラム】カスハラ対策に関する東京都の動向

近時、カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」といいます。)対策に関する関心が高まってきております。

各企業もカスハラ対策を次々と講じている印象がありますが、東京都において全国初のカスハラ防止条例の制定に向けて議論を進めていることが明らかにされています。

 

令和6年7月19日には、条例案を9月に議会に提出することが発表され、同時に意見公募が開始されています。

意見公募の対象となる「東京都カスタマーハラスメント防止条例(仮称)の基本的な考え方」が東京都HPにアップされていますので、今回はこの内容を簡単に紹介させていただきます。

(引用元:https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2024/07/19/18.html

 

◎条例の基本的な考え方に関する3つの柱

①「何人も、あらゆる場において、カスタマーハラスメントを行ってはならない」として、カスタマーハラスメントの禁止を規定

②「カスタマーハラスメント」の防止に関する基本理念を定め、各主体(都、顧客等、就業者、事業者)の責務を規定

③「カスタマーハラスメント」の防止に関する指針を定め、都が実施する施策の推進、事業者による措置等を規定

 

◎1本目の柱(=カスタマーハラスメントの禁止)

【禁止の規定】

  何人も、あらゆる場において、カスタマーハラスメントを行ってはならない。

【用語の定義】

 ○カスタマーハラスメント

   顧客等から就業者に対する、著しい迷惑行為であり、就業環境を害するもの

 ○著しい迷惑行為

   暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言など不

   当な行為

【備考】

  罰則規定を設ける予定なし。

 

◎2本目の柱(=各主体の責務を規定)

【責務の内容】

 都  :情報提供、啓発、教育、相談、助言その他必要な施策を行う

 顧客等:就業者に対する言動に必要な注意を払う、都の施策に協力する

 就業者:カスハラ防止に資する行動をとる、事業者の取組に協力する

 事業者:カスハラ防止に主体的・積極的に取り組む、都の施策に協力する

     就業者の安全を確保する

     カスハラを行った顧客等に中止の申入れその他必要で適切な措置を講じる

      就業者が顧客等としてカスハラを行わないよう必要な措置を講じる

【備考】

 いずれも努力義務

 

◎3本目の柱(=都による指針の制定、施策の推進、事業者による措置)

【指針の作成】

 ○都は、カスタマーハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)を定める。

  ○都は、指針において、「カスタマーハラスメントの内容」、「顧客等、就業者及び事業者の責務」、「都の施策」、「事業者の取組」、「その他」事項を規定する。

 ○都は、指針を定め、又は変更したときは、速やかに公表する。

【施策の推進】

  ○都は、カスタマーハラスメントの防止に関する「情報提供」、「啓発及び教育」、「相談及び助言」、「その他」施策を実施する。

  ○都は、カスタマーハラスメントの防止に関する施策の実施及び実施状況を検証し、施策に反映するよう努める。

【事業者による措置】

  ○事業者は、指針に基づき、必要な体制の整備、カスタマーハラスメントを受けた者への配慮、カスタマーハラスメント防止のための手引(マニュアル)の作成その他の措置を講ずるよう努める。

 ○就業者は、事業者が手引を作成したときは、遵守するよう努める。

 

以上が、条例の考え方に関する概要です。

カスハラ行為に対する罰則規定が設けられないこと、各主体の責務が努力義務であることからすると、強制力のある条例とはならないようですが、カスハラについて定義し、禁止することを明文化している点でカスハラ防止に向けた積極的な取組と言えそうです。

また、条例以外にも、指針を作成する方針(ガイドライン)とのことですので、どこまで詳細で実効性のある指針となるか動向を期待して待ちたいと思います。

 

冒頭で申し上げたとおり、各企業でもカスハラ対策への関心が増しておりますが、事前のカスハラ対策はどこまで講じればいいのか、実際にカスハラを受けた場合にはどう対応すれば良いかなど、お困りの場合には専門家へのご相談をお勧め致します。

 

以  上

 

※本コラムは、令和6年8月15日時点における情報を基に作成しております。

 

  作成者:弁護士 西原宗勲