前回は民法改正に至る今までの経緯を中心にお伝えしましたが、今回より具体的な民法改正の概要について触れていきたいと思います。
まずは第一編(総則)からです。
民法はパンデクテンという方式を採用しており、基本的に、共通項に関する規定→個別具体的な事項に関する規定という流れで条文が定められております。
従って、第一編(総則)は民法全体の共通項に関する規定を集成したものであり、人の能力(権利能力、行為能力)や法人、意思表示や代理等の法律行為、条件・期限、時効などについて定めています。
今回の民法改正では、主に意思表示、代理、時効に関して改正がなされました。
まず、意思表示ですが、民法93条は心裡留保について定められた規定であり、改正前の条文は次のとおりです。
(心裡留保)
第93条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
つまり、自分の真意とは異なる意思表示をしたとしても、そのことを自分自身で認識していたときは、その意思表示を原則として無効にすることはできません。例えば、この意思表示に基づいて、意思表示の相手方との間で契約が成立していたとすれば、この意思表示の無効を主張して、契約が成立していないとすることはできません(「冗談、冗談」では済まされないということです)。
ただ、その意思表示が真意に基づかないことを意思表示の相手方が知っていたとき、又は知ることができたとき(つまり、知らなかったことに過失があるとき)は、例外的にその意思表示の無効を認めてあげましょう、というのがただし書きの規定です。そのような相手方をわざわざ保護する必要はないからです。
しかしながら、表意者とその相手方だけではなく、さらに第三者がこの法律関係に絡んできた場合はどうでしょうか。例えば、表意者が心裡留保ながら、相手方にある物を贈与し、相手方がさらにその物を別の第三者に贈与したとします。その後から表意者が心裡留保であるとして意思表示の無効=贈与の無効を主張し、相手方も表意者の心裡留保を知っていた場合、93条但し書きが適用されて、確かに意思表示の無効=贈与の無効となるのでしょうか。そうすると、相手方と第三者との間の贈与はその前提が崩れますから、第三者は贈与を受けた物を返さないといけないのでしょうか。
この問題については民法上解決方法の明記はありませんでした。そこで、最高裁は、心裡留保により無効とされる法律行為を前提として、新たに法律上の利害関係を有することとなった第三者が表意者の心裡留保を知らなかったときは、その第三者を保護する判断をしました(最判昭和44年11月14日)。そのような場合には、表意者よりも第三者の保護の要請が上回ると考えられるからです(難しいことをいうと、民法94条2項の類推適用という理論を用いました)。
そして、今回の民法改正でこの最高裁の判断(判例)が明文化され、新たに2項として付け加わりました。
改正法第93条2項
前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
※「善意」とは、「知らない」という意味です。
(弁護士 柴山将一)