企業活動をするにあたり、避けて通ることは出来ない法律に会社法があります。会社法は、会社の設立、組織、運営及び管理などについて定めており、数多くの特別法のいわば土台となる法律です。
この「会社法」については、「会社法の一部を改正する法律案」(以下、「改正法」といいます。)が平成26年6月20日に可決成立し、同月27日に交付され、平成27年5月1日から施行されています。
これが「平成26年改正会社法」と言われているものなのですが、大きく分けて、図1の点について規律の整備、強化がされています。
これらのうち、今回は、①-ア「多重代表訴訟制度の創設」について検討してみたいと思います。
(図1)
① 親子会社に関する規律整備 | |
ア | 多重代表訴訟制度の創設 |
イ | 組織再編の差止め請求制度の拡充 |
ウ | 詐害的会社分割によって害される債権者の保護規定の新設 |
② コーポレート・ガバナンスの強化 | |
エ | 社外取締役の機能の活用 |
オ | 会計監査人の独立性の強化 |
(参考:法務省『法務省だより あかれんが Vol.47』)
1 事例
親会社Aは子会社Bの株式を100%保有しており、親会社Aには株主a、b、cがそれぞれ存在しているところ、子会社Bの取締役Xの放漫経営により、子会社Bに損失が生じてしまいました。しかしながら、子会社Bの経営陣は放漫経営をしていた取締役Xの責任を追及する姿勢が全くありません。
このような状況において、子会社Bの株主である親会社Aや、子会社Bの損失が親会社Aの損失に結びつくのではないかと考えた親会社Aの株主a、b、cは、取締役Xの責任を追及するため、いかなる手段を講じることができるのでしょうか。
2 旧法での株主代表訴訟制度
まず、取締役Xの放漫経営により損害が生じているのは子会社Bですので、子会社Bが、放漫経営をしていた取締役Xの責任追及をきちんと行う方針なのであれば、親会社Aや親会社Aの株主a、b、cとしては、子会社Bによる責任追及を静観するという選択肢もあるでしょう。
しかし、子会社Bの経営陣が、放漫経営をしていた取締役Xの責任追及をきちんと行う姿勢がない本件のような場合には、親会社Aや親会社Aの株主a、b、cとしては、取締役Xの責任を追及したいと考えるのが通常かと思います。
そのための制度が株主代表訴訟制度(会社法847条)であり、まさに会社が取締役の責任追及を怠ることがあるという事態を想定して、株主が会社のために取締役に対し訴えを提起して責任を追及することを可能にした制度です。
3 株主代表訴訟制度の問題点
もっとも、株主代表訴訟制度には問題点が大きく2点ありました。
まず1点目は、株主が自ら株式を保有している株式会社の取締役等の責任を追及するという制度に過ぎないということです。すなわち、本ケースの場合、子会社Bの取締役Xの責任を株主代表訴訟の制度により追及することができるのは、あくまでも子会社Bの株主である親会社Aのみであり、親会社Aの株主である株主a、b、cとしては、独立して取締役Xの責任を追及することは困難であるという問題が存在していました。
また、2点目の問題点として、上述のように子会社の株主である親会社が株主代表訴訟により責任追及を行うことができたとしても、親会社の取締役と子会社の取締役との人的関係等により、親会社が、子会社の取締役の責任追及を行わない可能性が存在しており、子会社の取締役の責任を十分に追及することができないという構造的な問題も存在していました。
4 改正法による多重代表訴訟制度の創設
そこで、改正法により、多重代表訴訟制度が導入されるようになったのです(会社法847条の3)。これまでの流れからわかるように、多重代表訴訟制度は、本ケースにおける、株主a、b、cに子会社Bの取締役Xの責任追及を行うことができるようにし、上記の2つの問題点を解決するための制度です。
ただし、全ての親会社株主に多重代表訴訟を提起することができるようにするのではなく、要件を設けて絞りをかけています。
具体的には、図2の3点の要件をクリアした株主である必要があります。
なお、②要件については、株主1人でクリアしなければならないということではなく、数人の株主が共同して権利行使した結果、合計して1%以上保有することになればよいとされています。すなわち、本ケースで株主a、b、cそれぞれが1%以上株式を保有している場合はもちろん、株主a、b、cの株式の合計が1%以上であった場合についても②要件を満たすこととなります。
(図2)
① | 株式会社の最終完全親会社等(※子会社の株式全部を直接保有する株式会社や、完全子会社等を介して子会社の株式全部を間接的に保有している最上位の株式会社を想定してください。)の株主であること |
② | 当該最終完全親会社等の総株主の議決権の100分の1以上の議決権を有する株主であること または 当該最終完全親会社等の発行済株式の100分の1以上の数の株式を有する株主であること |
③ | (公開会社の場合)当該最終完全親会社等の株式を6か月前から引き続き有する株主であること |
5 多重代表訴訟を提起することができない株主であった場合
上述のように、多重代表訴訟を提起するには、①~③の要件をクリアする必要があります。翻っていえば、①~③の要件を満たさなかった場合には、上記3で検討した問題点は解消されないということを意味します。
多重代表訴訟を提起することができない場合、株主a、b、cとしては、やむなく通常の株主代表訴訟制度を利用して、今度は親会社Aの取締役等の責任を追及していくことになるでしょう。
ただし、その場合、取締役Xに義務違反があること、親会社Aの取締役等が、多重代表訴訟制度により取締役Xの責任追及をしないとする経営判断をしたこと義務違反となること、親会社Aに損害が生じていることの全てを立証しなければならないと指摘されているところであり、相当な困難が伴うことが予想されます。
その意味で、親会社株主による子会社の取締役の責任追及をめぐる問題はすべて解決されたわけではなく、今後の実務対応により議論の深まりが望まれるところです。