2018年の夏は記録的な猛暑となりました。この記録的な猛暑に伴い、2018年の熱中症による救急搬送者数は2017年を大きく超えているそうです。
そんな中、つい先日まで甲子園では第100回全国高校野球選手権大会が開催されておりました。連日の熱戦に感動を覚える一方、一部では炎天下で連日試合を行う選手たちの熱中症も心配する声があり、現に今大会中も数十人の選手が熱中症の症状を訴えたとの報告があります。
選手たちの指導者並びに大会関係者の方々は、こうした問題を真摯に受け止め、熱中症対策について十分に検討する必要があると思われます。
では、裁判上、部活動を行う学生の熱中症対策について、指導者等はどのような措置を採ることが要請されているのでしょうか。
まず多くの裁判例は、学校の校長及び指導教諭の一般的な義務として、「学校設置者である地方公共団体は,部活動に際し,生徒の生命,身体の安全を確保するよう配慮すべき義務を負うことになる。・・・熱中症は,重篤な場合には死に至る疾患であることからすれば,校長及び指導教諭は,上記安全配慮義務の一環として,熱中症予防に努める義務を負うももと解される。」(大阪地裁平成28年 5月24日等)としております。
その上で、具体的にどのような対策を採るべきかについて、近時の裁判例をみると、上記大阪地裁平成28年 5月24日や大分地裁平成20年 3月31日は、財団法人日本体育協会の作成した「熱中症予防のための運動指針」に定める対策を採る義務があることを判示しております。
同運動指針は
①熱中症予防運動指針について、
気温35度以上:特別の場合以外は運動を中止する。
気温31度以上:激しい運動や持久走など体温の上昇しやすい運動は避ける。体力の低い者、暑さになれていない者は運動中止。
気温28度以上:積極的に急速をより水分を補給する。激しい運動では30分おきくらいに休息をとる。
気温24度以上:熱中症の兆候に注意すると共に、運動の合間に積極的に水を飲むようにする。
②水分補給について、
トラック競技、バスケット、サッカー等では競技前に250ml~500ml、競技中に500ml~1000ml
マラソン、野球等では競技前に250ml~500ml、競技中に500ml~1000ml/1時間
ウルトラマラソン、トライアスロン等では競技前に250ml~500ml、競技中に500ml~1000ml/1時間、さらに必ず塩分を補給する。
と規定しております。
上記の裁判例は近時の裁判例の一例であり、裁判例の中にはより厳格な対策を求めるものや、より緩やか対策をで足りるとしているものもございます。また上記の基準はあくまでも裁判上の基準であり、この基準を守る限り安全が約束されるというものではありません。
しかし、こうした裁判上の基準も一つ目安として考慮した上で、指導者の方々には十分な熱中症対策を行って頂きたいと思います。