【コラム】相続法改正(配偶者居住権)

 

前回のコラム(2019年5月28日)では,大幅に改正されることになった相続法のうち,既に施行されている「自筆証書遺言の方式の緩和」について解説をしました。

今回は,相続法改正の中でも目玉の一つといえる「配偶者居住権」の新設について紹介させていただきたいと思います。
 
配偶者居住権は,簡潔にいえば,相続開始の時に被相続人の住居に居住していた配偶者が,無償で,しかも原則として終身の間,生活できる権利を確保する制度といえます。
一方の配偶者が亡くなられた際,生存配偶者としては,いままでと同じ住居に居住したいというのが自然な感情といえますが,従前の方法では,居住権を確保したはいいものの,その後の生活まで充分に確保されているか疑問の残る内容であったことから,一定の要件のもとに居住権を確保することとしたものです。
 
具体的には,民法1028条~1036条が新設されることになります。
 
その要件は,以下のとおりです。
①被相続人の配偶者が,被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していたこと
②配偶者に配偶者居住権を取得する旨の遺産分割,遺贈などがされたこと
 
そして,配偶者居住権を取得した場合には,原則として終身の間(別段の定めをした場合等は除く),建物の全部を無償で使用・収益することができるようになります。
 
以上が,「配偶者居住権」が成立するまでの概要です。
このコラムをご覧になっている皆様は,まずはこのような制度ができるということだけでも覚えておかれることをお勧め致します。
なお,この改正は,2020年(令和2年)4月1日から施行となります。
 
もっとも,実際にこの制度を利用せざるを得ない状況になったときに,ただ制度を知っているだけでは分からない問題に直面することも多いと思います。
例えば・・・
 ・配偶者居住権を取得する旨の遺産分割とは具体的にどのようにやるのか?
 ・配偶者居住権の財産価値はどのように計算すれば良いのか?
 ・配偶者居住権を取得した配偶者に何か義務が生じたりしないか?
 ・建物が被相続人と他人との共有になっているが大丈夫なのか?
 ・配偶者居住権を取得した後に何か手続を行う必要はあるか?
また,残された配偶者の『当面の』居住権を確保する目的で「短期配偶者居住権」(民法1037条~1040条)という制度も新設されています。
 
このように改正により相続法の分野は複雑に変化してきておりますので,遺産分割などが終わってみたらいつの間にか不利益を被っていたといった事態にならないよう,相続の際には専門家に相談されることを是非お勧め致します。