【コラム】組体操と学校の責任

先日、神戸市の市長が、運動会での組体操による子供の骨折等の事故が多発していることを踏まえ、SNS上で組体操の実施見合わせを強く求めたことが注目を集め、その後、市長の発言にも関わらず神戸市の小中学校での組体操練習による負傷が多発したことも含め、話題となりました。

組体操については、過去には死亡事故や重篤な後遺症が残る事故も発生していることから、近年、運動会の時期になると組体操実施の是非について議論になることが増え、危険だとして運動会の種目から外す学校も出てきました。

 

では、児童・生徒の組体操での怪我につき、学校や教員はどのような場合に責任を負うのでしょうか。

 

まず前提として、組体操事故における民事上の責任の根拠についてみると、公立学校の場合、児童・生徒の怪我の治療費・慰謝料等は、通常は公務員である教員や校長が「その職務を行うについて」与えた損害となるため、原則として教員・校長個人は賠償責任を負わず、当該公立学校を設置した地方公共団体(都道府県や市町村)が、国家賠償法1条1項の責任を負いうるにとどまります。

もっとも、地方公共団体のみが被害者に対する責任を負う場合でも、同条2項により、教員や校長に故意または重過失があった場合には地方公共団体が求償権を有することになりますので、教員・校長が個人として責任を負う可能性はあります。

一方、私立学校であれば、教員個人や校長、学校法人等が不法行為責任(民法709条、同714条2項、同715条1項)を負う可能性があります。

また、公立・私立を問わず、学校設置者は、債務不履行に基づく責任(民法415条)を負う可能性があります。

 

いずれの責任についても、裁判となれば現場で指導・監督していた教員の過失が大きな争点となるところ、過失の主張・立証においては、事故が予見可能であり、結果を回避することもできたにも関わらず、これを怠ったことが明らかにされる必要があります。

 

組体操事故についての裁判例は複数存在しており、例えば、名古屋地裁平成21年12月25日判タ1333号141頁では、公立小学校の組体操の練習中に4段ピラミッドの最上位から落下し傷害を負った事故につき、教員の過失が肯定され、学校設置者である地方公共団体への請求の一部が認められています。

同判決では、まず、「体育の授業は……授業内容それ自体に必然的に危険性を内包する以上、それを実施・指導する教員には、起こりうる危険を予見し、児童の能力を勘案して、適切な指導、監督等を行うべき高度の注意義務がある」として、教員に高度の注意義務を求めました。そして、4段ピラミッドの技としての危険性(2m以上の高い位置で立ち上がる動作を行い、かつ、安定するか否かは、3段目以下の児童の状況にかかってくるもので、落下する危険性を有する)を踏まえ、具体的に注意義務を認定したうえ、教員らが、危険を回避・軽減するための指導を十分に行っていないこと、4段ピラミッドの3段目以下の児童が不安定な状況にあったのに、これを把握しないまま漫然と合図を出したこと、ピラミッドの状況を近くで把握し、合図にかかわらず組立てを止めるよう指示することのできる教員をピラミッドの近くに配置しなかったこと、児童の落下を補助する教員をピラミッドの近くに配置していなかったこと等を認定し、教員らの過失を肯定しました。

 

一方、東京地裁平成29年9月29日判決ウェストロー・ジャパンでは、公立小学校における組体操(3人タワー)の練習中に、土台となっている生徒の上から落下して傷害を負った事故につき、学校側の責任が否定されています。

同判決では、①本件技の危険性や習熟度に応じた指導・監督を怠った過失の有無、②本件技の危険性や習熟度に応じた指導・監督を怠った過失の有無、③本件事故の前に練習を中断すべきであったか否か、④児童に無理をさせないための説明が不十分であったか否か、といった争点を踏まえて安全配慮義務違反を否定しており、学校側としてどのような点にどの程度の注意を払って組体操を行えば足りるのかについて参考となります。

 

2016年3月25日には、スポーツ庁から「組体操等による事故の防止について」と題する通知が出されており、必ずしも具体的な内容とはなっていないものの、児童生徒の習熟状況の正確な把握や、状況に応じた活動内容・指導計画の見直し、事故事例の周知徹底等が要請され、タワーやピラミッドについては演目名を挙げた上で危険性が指摘されています。

 

これらの裁判例や通知の存在からすれば、現状、組体操で事故が起きれば確実に学校や教員の責任になるという状況にはないものの、タワーやピラミッドといった危険性の指摘されている演目において事故が発生した場合、少なくとも事故の予見可能性の否定は困難であり、かなり注意深い監督・指導を行わなければ結果回避義務の違反を認められ、過失責任を負うことは免れ得ないと思われます。

 

事案によっては、上記の民事上の責任のほかに、教員らに刑事責任(業務上過失傷害罪)や行政責任(公立教員ならば懲戒処分)が発生する場合もあります。

 

以上のように、組体操(特に危険度の高い、同時に見栄えがするとされる技)には子どもの一生を台無しにするリスクがあるのみならず、学校、教員・校長にとっても相当なリスクがあります。

そういったリスクについての考えは確実に広まりつつあるにもかかわらず組体操による事故が依然多く発生している原因は、学校側の考えのほかにも、保護者や児童・生徒の要請にもあるようです。

今年の運動会にて組体操で大いに盛り上がった学校においても、来年以降、同様に続けていくべきか、一度冷静に考えていただきたいところです。