【コラム】賃金のデジタル払い

 労働基準法第24条第1項によれば、労働者への賃金の支払いは、通貨で直接労働者に支払うこととされています。
 ただし、労働基準法施行規則第7条の2によれば、例外として、労働者が同意した場合には、銀行口座及び証券総合口座への賃金支払いが認められています。
  
 この点、日本は、先進国の中でもキャッシュレス化が遅れていることから、政府は近年、国全体でのデジタル化の普及促進を図っています。
また、今後増加が予想される外国人労働者が訪日後すぐに銀行口座を開設することが困難であるとの事情も、普及促進の背景の一つです。
  
 そこで、令和5年4月1日から、労働基準法施行規則の一部を改正する省令が施行され、使用者が労働者の同意を得た場合に、一定の要件を満たすとして厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者の口座への資金移動による賃金支払い(=賃金のデジタル払い)が認められることとなりました。
 具体的には、企業が銀行の口座を介さずスマートフォンの決済アプリや電子マネーを利用して振り込むことができる制度です。
 
 
 賃金のデジタル払いは、以下の手順を踏んで利用可能となります。
 
  令和5年4月1日以降、資金移動業者が厚生労働大臣に指定申請を行う。
  申請受付後、厚生労働省で審査を行い、基準を満たしている場合には当該事業者が指定される(ただし、審査には数ヶ月を要する見込み)。
  各事業場で、賃金のデジタル払いを行う場合には、利用する指定資金移動業者等を内容とする労使協定を締結する。
  労働者は、賃金のデジタル払いの留意事項に関する説明を受け、賃金のデジタル払いを希望する場合、使用者に同意書を提出し、同意書に記載する支払開始希望時期以降、賃金を資金移動業者の口座で受け取ることができる。
  ※手順④中における同意書の様式例は、厚生労働省のHPから確認できます(https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001017091.pdf)。
  
 法律家として、今後の推移を注視していきたいと思います。