本年4月1日、民法上の親子法制の見直しを内容とする改正が施行されたことをご存知でしょうか。
民法は、親子関係に関する定めを設けており、その中には生まれた子どもの父親が誰かという問題を法律上早期に確定させるための規定が含まれておりますが、今回は、当該民法改正の内容についてご紹介させていただきます。
1.女性の再婚禁止期間の廃止
(1)以前の民法では、再婚後間もなく生まれた子どもの父親が誰かという混乱が生ずる
ことを防ぐために、女性は離婚後6ヶ月を経過しなければ再婚できないと規定されて
いました。
もっとも、平成27年の最高裁判例(平成27年12月16日大法廷判決、裁判所
ホームページ)にて、離婚後100日間を超える再婚禁止期間は憲法第14条等に違
反するとの判決が示されると、平成28年の民法改正にて、女性の再婚禁止期間は原
則100日まで短縮されました(旧第733条)。
(2)そして、今回の民法改正では、さらに第733条自体が削除され、女性の再婚禁止
期間を定める規定が撤廃されましたので、これによって再婚禁止期間の制度は廃止と
なっております。
なお、後記の嫡出推定制度の見直しとも関連しますが、当該改正の背景には、医学技
術の進歩により親子関係の特定が可能となったことや、子どもの無戸籍問題を解消す
る目的などが挙げられております。
2.嫡出推定制度の見直し
(1)生まれた子どもの父親を法律上早期に確定させるために、民法は嫡出推定という制
度を設けておりますが、従来の民法では、婚姻中に懐胎した子は夫の子と推認される
ほか、離婚後300日以内に生まれた子は(以前の)婚姻中に懐胎したものと推定さ
れると規定されておりました(第772条)。
すなわち、再婚後に出産した場合であっても、その出産が離婚後300日以前であ
る場合には、以前の夫の子と推定される運用となっておりました。
(2)本年4月1日に施行された民法改正では、この点について見直しが行われ、現在の
条文は以下のとおりです。
(嫡出の推定)
第772条
1 妻が婚姻中に懐胎した子は、当該婚姻における夫の子と推定する。女が婚姻
前に懐胎した子であって、婚姻が成立した後に生まれたものも、同様とす
る。
2 前項の場合において、婚姻の成立の日から200日以内に生まれた子は、婚
姻前に懐胎したものと推定し、婚姻の成立の日から200日を経過した後又
は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中
に懐胎したものと推定する。
3 第1項の場合において、女が子を懐胎した時から子の出生の時までの間に
2以上の婚姻をしていたときは、その子は、その出生の直近の婚姻における
夫の子と推定する。
4 前3項の規定により父が定められた子について、第774条の規定により
その父の嫡出であることが否認された場合における前項の規定の適用につ
いては、同項中「直近の婚姻」とあるのは、「直近の婚姻(第774条の
規定により子がその嫡出であることが否認された夫との間の婚姻を除
く。)」とする。
これにより、離婚後300日以内に出産した場合でも、その間に女性が再婚し、
再婚後に生まれた子どもは、再婚後の夫の子と推定されることなりました。
(3)改正前の民法では、再婚後に生まれた子どもであっても、上記のとおり離婚から
300日以内の出産である場合、以前の夫の子どもと推定される事態が生じ、これを
避けるために子どもの出生届の提出をためらう(無戸籍の子どもが生ずる)といった
ことがあり得ました。
もっとも、本改正により、再婚後の夫の子と推定されることとなりましたので、子
どもの無戸籍問題の解消に向けた法制度の改正といえると思われます。
3.また、上記の他にも、これまで夫にのみ認められていた嫡出否認権が、子及び母にも
認められ(第775条)、嫡出否認の訴えの出訴期間が1年から3年に伸長されたり
と(第777条)、様々な見直しが行われました。
このように、現代社会の変容に伴い、その時代に合わせた法改正が行われていることが
確認できますが、今後も時代に合わせた動向に注目していきたいと思います。
(参照)法務省ホームページ https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00315.html